コミュニケーションが難しい、相手の意図が読みにくい
(自閉スペクトラム症、ASD)

自閉スペクトラム症、ASDイメージ

ASD(自閉スペクトラム症)は、過去に自閉症、高機能自閉症(アスペルガー症候群)と呼ばれた病気をまとめたので、「スペクトラム」という総称になっています。

スペクトラムとは、分光のこと。同じ光でもプリズムを使うと周波数によって色が分かれるように(現代物理学では周波数以外にエネルギーや時間によっても分解できるようですが)、同じASDでも様々な特性を持っている人がいると理解されます。何だか分かったような、分からないような概念ですね。

実際には「コミュニケーションの質的障害」がASD診断の核になるのですが、コミュニケーションが相対的で流動的な現象である以上、何をもって障害とするかは、文化・時代・地域によって異なる可能性があり、診断学としてまだまだ歴史の浅さを感じます。余談になりますが、統合失調症の診断根拠を巡ってかつて反精神医学運動が起きたように、ASDに対しても同じ反発が起きるかもしれません。

長くなりましたが、とはいえ、ASDで社会不適合を起こす方は多く、うつ病やADHD(注意欠如多動症)との合併も多いため、現代社会の重要問題となっていることはお伝えしなければなりません。

診断の補助となるのが、心理検査です。一般的に ASDの患者さんは出来ることと出来ないことの差が極端であることが多々あります。この差が社会的な認知機能(結果としてコミュニケーション)になんらかの問題をもたらしていると考えられます。

心理検査のうち、特にWAISとロールシャッハテストは発達障害を定量・定性双方から評価できるため、患者さんの得意不得意(凸凹)からパーソナリティまで、ある程度把握でき、ASD診断の有効なツールです。

肝心の治療はというと、残念ながらASDに特化したものはまだありません。ADHDの項でも述べましたが、身近な人の理解や協力と言った、環境要因が大きな治療効果を持ちます。

まだ研究段階ですが、オキシトシンという乳汁分泌に関連したホルモンを投与すると、相手への共感性が改善したというデータはあります。一般的に女性の方が社交的で打ち解けやすいと言われていますが、男性と比べて女性にASDが少ないといわれるのは、オキシトシンが関係しているからかもしれません。