物忘れが出てきた(アルツハイマー型認知症)
認知症、特に最もポピュラーなアルツハイマー型認知症についてお話ししたいと思います。
認知症診療は長らく、(脳)神経内科と心療内科が分かれて診察してきた背景があります。(脳)神経内科は脳構造の変化に興味を、いっぽう心療内科は認知機能の変化に興味を持って診察するんですね。
一見、同じ認知症を診るのだからどの科も大差ないじゃないか、と思われるかもしれませんが、そこは餅は餅屋で得意分野が異なるんです。
具体的には、私たち心療内科は機能面を重視しますから、CT脳画像にあまり萎縮が見られなくても生活面で問題が出るようであれば、比較的躊躇せず抗認知症薬による治療を開始します。他方、(脳)神経内科は脳構造を重視しますので、生活面で問題が出ていても脳萎縮が少なければ様子見という判断をされることが多いと思います。
また、認知機能の低下には、記憶力の低下という中核症状に加えて、徘徊、もの取られ妄想、嫉妬妄想、閉じこもり、などご家族が困ることの多い周辺症状があります。この周辺症状のコントロールは心療内科・精神科の得意とするところです。
ただ、患者様がパーキンソン病だったり、パーキンソニズム(パーキンソン病と同じ手の震えが見られるが、他に原因がある病態の総称)の治療については(脳)神経内科の先生は使える薬剤が多くていらっしゃる印象です。
いろいろ書きましたが、餅は餅屋ですのでそれぞれの科で紹介し合いながら診察するケースもあります。このくらい、認知症はさまざまな症状が集まった病気なのですね。
前置きが長くなりましたが、本題のアルツハイマー型についてご説明します。何年もかけて(平均13年ほど)徐々に記憶力が低下するのが特徴で、少しずつ日常生活で出来ていたこと(食事の支度、入浴、排泄など)ができなくなります。
アルツハイマーの原因としては、ベータアミロイド蛋白の変性とタウ蛋白の蓄積が主流ですが、他にもウイルス感染(毎年のインフルエンザワクチン接種が発症リスクを下げるという研究があります)などいくつか議論されています。
典型的なアルツハイマー型認知症ですと、診察室に入られる瞬間に「あ、アルツハイマーだな」と分かること(snap diagnosis といいます)があります。『恍惚の人』(有吉佐和子作)を地で行く感じです。穏やかでおっとりした雰囲気ですが、肝心なことになると言い繕いが目立ちます。例えば、今日は何月何日ですか?と伺うと「あー、ちょっと前まで分かってたんですけどね、何というか…」など取り繕うのです。
このような症状に加えて、心理検査(長谷川式認知症スケールやMMSE)、頭部画像検査を組み合わせて、最終的にアルツハイマー型認知症と診断します。
治療はいくつかの抗認知症薬から1種類を選択したり、周辺症状のある場合には他の薬を組み合わせたりします。同時に介護保険を導入してデイサービスやショートステイなど、家族の負担を減らす福祉サービスを取り入れることが一般的です。認知症はご本人だけでなく、ご家族全体を取り巻く問題であるため、ご家族の協力が得られるよう調整することも、私たちの役目となります。
最後に認知症全般に関わる話ですが、75歳以上の方の運転免許の更新について、お話をして終わりにしたいと思います。
運転免許センターなどで簡易的な認知機能の検査を受けて要受診という判定が出ると、少なくとも一度は認知症を診療できるクリニックか病院を受診する必要があります。
私たちは診察の結果を公安委員会用の診断書に書いて提出するわけですが、ここで重要になるのが、長谷川式認知症スケールやMMSEの得点です。いずれも30点満点中21点未満になると、何らかの認知症である確率が高いとみなされるため、免許更新ができない可能性があります。もちろん点数だけでなく、脳画像所見など総合的に見て判断するわけですが、点数と脳の形はそれなりに相関するので、やはり難しいかなという印象があります。
反対に点数が高くても、前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症など他の認知症の診断が付く場合は、症状(性格変化や幻視など)とその経過によって慎重に判断する必要があります。 (なお、免許更新については、新潟市医師会ホームページ「認知症患者の自動車の運転免許更新に関する診断書について」(佐野英孝氏)を参考に作成しました。)
前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症については、また別の機会にブログでご紹介したいと思います。
いかがでしたでしょうか?認知症にはある程度共通した経過(予後とも言います)がありますが、個人差も大きく、それはご本人のもともとの性格や社会適応状態、そしてご家族の協力によるのだと思います。患者様の特性や環境に合わせた治療が求められる所以です。