慢性の痛み(慢性疼痛、身体表現性障害)

慢性の痛みイメージ

普段、健康なときは特に身体のことを考えることなく生活できるものです。ところが、何か心配事や気掛かりなことがあって、その間に身体の一部に痛みを感じるようになると、だんだん痛みに気を取られるようになります。痛みを取りたいと思って鎮痛薬を飲んでもほとんど効かず、ついには痛みが一日の関心ごとの中心になる…まるで、痛みに人生をコントロールされているような気持ちになる場合があります。

これが、慢性疼痛(chronic pain)の正体です。専門的に言うと、慢性疼痛は身体表現性障害と言う、身体の病気がないにも関わらず身体の不調を訴えるこころの病気のひとつに含まれます。

慢性疼痛は痛みの原因が特定されないにも関わらず、6ヶ月以上持続して痛みが続く場合に診断されます。痛みの部位はひとつのこともあれば、複数に渡ることもあります。代表的な慢性疼痛には、【線維筋痛症】(全身の痛みや頭痛、疲労感が主症状)や【顎顔面疼痛】(顎、舌、歯、歯茎、頬などの痛みで場所が移動することもある)があります。

慢性疼痛を訴える患者様の多くは、クリニックや病院を渡り歩くことが多いです。なぜなら、痛みがすぐに取り除かれないことの不安やストレスが溜まったり、医師の何気ない一言に傷ついた、などの理由を抱えるからです。特に身体に問題が見つからない場合、心療内科や精神科を紹介されて憮然とした気持ちになられる方もいらっしゃいます。

このような方がいらっしゃった場合、まずは患者様のお話をじっくり伺うことが重要です。感情面の様子を伺い、不安障害やうつ病が隠れていないか確かめることも大切ですが、いま一度、痛みの性情を再確認することが求められます。

英語圏の医療施設では、痛みの性質を特定するためにSOCRATESという頭文字(mnemonicsと言います)を使って患者様に質問することがあります。 SOCRATES (Site; Onset; Character; Radiation; Associations; Time course; Exacerbating factors; Severity) の詳しい説明は割愛します。

上記の全ての質問(8つあります)を患者様にする訳ではありませんが、入念に問診すると、やはり身体の痛みなのか、それともこころからくるものなのか、ある程度の鑑別はできます。どうしても身体の可能性を否定できない場合は、再度検査をしていただくよう紹介状を書くこともあります。

これは僕の経験ですが、特にもともと健康な男性が顎顔面痛を長らく訴える場合は、口腔外科をご紹介するなどして調べてもらうと、例えば虫歯の治療で蓋をした箇所が腐っていたなど所見が見つかる場合があるため、注意した方が良さそうです。

いかがでしたでしょうか?痛みはもともと人間が生存するための大切な感覚ですが、それがいろいろな原因が絡んで身体に何もないはずなのに脳が暴走して日常生活を脅かすことがあるのですね。痛みに限らず不安、聴覚など、人間の生存に欠かせないシグナルが行き過ぎてしまったものがメンタル疾患の本質なのかもしれません。

今回は痛みの治療について詳しく述べませんでしたが、個人的には抗うつ薬、ノイロトロピン(ウサギの皮膚に炎症を起こして抽出した、日本発の生物由来製剤です)、鎮痛剤トラムセットなどを組み合わせて診療しています。王道の治療法といったものはあまりなく、患者様に応じたテイラーメイドの治療が最も良いように感じます。